前十字靭帯 (ACL) 損傷

前十字靱帯(ACL: Anterior Cruciate Ligament)は、膝関節の中心で、大腿骨と脛骨をつないでいる最も重要な靭帯です(左図)。膝関節の前方および回旋の安定化、つまり、ジャンプ・ストップ・カット・ピボット動作などスポーツ活動に不可欠な膝の動きを制御しています。
ACL 正常3.jpgACLは、大腿骨の顆間窩と呼ばれる狭い谷間の外壁の後縁から、斜めにねじれながら、脛骨の前縁のやや内側よりに付着しています。膝の中心を斜めに走行することで、脛骨の前方移動と内旋移動を同時に制御しています。

  ↑ 正常のACLの鏡視像

ACL 図  機能.jpg

ACLの機能
A: ACLが脛骨を正しい位置に保っているが、B: ACLが切れると脛骨が前方へ亜脱臼する。C: 繰り返されると半月が痛んでくる。


ラグビーやアメフトの様なコンタクトスポーツで膝にタックルを受けたり、バレーやバスケットのようなノンコンタクトスポーツではジャンプ着地時やピボット動作時にバランスを崩したりして、ACLが耐え得る以上の衝撃力が生じると、いとも簡単に切れてしまいます。

ACL 図 ツイスト.jpg

切れるときはひどくあっけない感じで、本人にもそれほど重篤感がないことが多い様です。なので、そのままプレイを再開しようとしますが、まっすぐは走れても、ジャンプ・ストップ・カット・ピボット動作など肝心要めの動作で膝が亜脱臼(膝崩れ現象:Giving way)して使いものになりません。その後1〜2日で、関節内の出血で膝が腫脹してくるとともに、激しい痛みと可動域障害が見られる様になります。それでも、病院に行こうかどうしようか悩みながら2~3週もおとなしくしていれば、痛みや腫脹が嘘のように軽減して日常生活に困る事もなくなるので、治った様な気がしてくるようです。しかし、残念ながら、この靭帯の断裂は簡単に治りません。

なぜなら、ACLは、断裂すると断端がはじけ、倒れ込んだり違う場所に癒着したりして、相手を見つけて自然につながるようなことはけしてありません(下写真)。さらに、元々、血行が乏しく自己修復力の低い組織なので、奇跡的に連続性を保っていても(不全断裂:部分的に切れたか、伸びきった状態で辛うじて繋がっている状態)、一度生じた緩みが自然に縮んでもとに戻ることはありません。

物理的につながらない、緩みが縮まらない限り、ACLは機能せず、ジャンプ・ストップ・カット・ピボット動作は困難となります。つまり。レベルの高いスポーツ活動ができなくなり、選手生命の危機に窮することになります。たとえ、スポーツレベルを下げても、膝くずれを繰り返す可能性は高く、繰り返せば、続発性の半月損傷を生じ、やがて、軟骨損傷が進み、変形性膝関節症の発症・進行を止められなくなってしまいます(スイッチが入ってしまいます)。

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