前十字靭帯 (ACL) 損傷の治療

[ 靭帯再建術 ]

前十字靭帯損傷の治療には再建術が第一選択です。

自分の体の他の部分から採取した腱を、切れた前十字靭帯の代わりに、正確に骨に穴を開けて移植する手術です。骨に穴を開けて移植するので、骨の中から修復能力の高い幹細胞や血管を作る細胞が関節内に誘導され、移植腱をACLに非常によく似た組織へと作り変えていきます。この過程で、移植腱は一端強度が落ち込んだ後V字回復を遂げていきます。しかし残念ながら、現代の技術では、いまだ、最終的に正常ACLの強度を超えることはできないようです。


写真左:靭帯再建術直後、写真右:16ヶ月後

完全に作り変わるには2年以上もかかるとも云われていますが、
2年も待つことなく、ノンコンタクトスポーツで最短6ヶ月、コンタクトスポーツで最短8ヶ月をスポーツ復帰の最短の目標とします。この時期、再建靭帯はまだ十分な強度には回復していませんので、再建靭帯に負担のかからない様なプレイスタイル・スキルと十分な筋力を獲得しておくことが条件となります。復帰後も、2年間は怪我をしないように注意しないといけません。

この6−8ヶ月で復帰という設定は、様々な基礎・臨床研究の結果から、世界中の第一線で活躍する著名な専門医たち(自称専門医ではなく)に最も推奨されている(コンセンサスが得られている)設定です。それでも、常に復帰後の再断裂の危険を伴います。余裕があれば、もっとできるだけゆっくりと十分な準備をして復帰するのが安全で望ましいと云えます。

*4ヶ月で、よそより早く復帰できます、という甘い言葉には気をつけてください。偶然にも復帰できた人がいる、くらいの話です。復帰直後にすぐにダメになって、自分の努力が(リハビリが)足りなかったと云われて、自分を責めるのも間違いです。悪いのは、無理な時期に復帰を許可した人間です。

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[ 保存治療 ]

前項で述べた様に、断裂した靭帯を保存治療で治すことはできません。保存治療というのは、治すのではなく、特別な理由(社会的理由・本人の都合など)で手術ができない場合に、筋力をつけ、膝を捻りにくい動作を習得するような訓練を行って、膝崩れの回数を減らす努力をする事です。テーピング、装具などを利用して軽い運動は行えますが、スポーツへの復帰も含めて推奨はできません。なぜなら、保存治療では、膝崩れを完全に止めることはできず、繰り返せば、半月や軟骨を痛めていくからです。

*試合や大会が近いので手術をしていては間に合わない、という理由で保存治療を選択しないでください。保存治療ではスポーツパフォーマンスを取り戻せません。つまり、試合にでてもまともに働けないということです。そればかりか、半月や軟骨まで痛めて、結果的に必要な手術が増えていく可能性があります。


[ 靭帯縫合術 ]

断裂した組織をどんなにしっかり縫合しても、糸以上の初期強度は得られず、また、血行の乏しさや治癒能力の低さから、良い結果はまず得られません。盛んに縫合された時代(1980年代まで:私が医者になるよりも前)もありましたがさんざんな成績でした。それから現代に至るまで、技術的にも科学的にも私の知る限り大きな進展はありません。

*ごく稀に、この縫合術を今でも推奨しているドクターがいるので、気をつけましょう。


[ 靭帯付着部での剥離骨折の治療 ]

靭帯が付着部で骨つきで引っこ抜かれた様な骨折(剥離骨折)は、靭帯実質のダメージが少なく、剥離した骨を元に戻して強固に固定できれば、ほぼ問題なく治すことができます。詳しくはコチラ🔜


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