半月損傷の治療

半月は極めて重要な役割を持ち、欧米では亡くなった人の半月を移植する同種移植術が行われるほど必要不可欠な組織です。切除すると急速に軟骨損傷が進み、変形性膝関節症の発症・進行を止められなくなってしまいます(スイッチが入ってしまいます)。そのため、治療は縫合術が第一選択であり、
縫合できない場合は、一定期間の経過観察(保存治療)を試み、やむなき場合に限り切除します。

手術はすべて関節鏡という内視鏡システムを用いて最小侵襲(皮膚につける傷は最大でも2センチ以下 )で行います。

[ 縫合術 ]

縫合術の概略を示します。

縦断裂・ロッキングの場合

半月の円周方向に裂け目が入るのが縦断裂で、最もに多いタイプです。この縦断裂が広がって、内側が関節の間隙へはまり込むことで関節を動かせなくなった状態をロッキング(locking)と呼びます。いずれも、元の位置に戻して下の写真のように縫合することができます。

縦断裂の縫合術 
A: 縦断裂、B: ロッキング、C: ロッキングを整復したところ
D-E: 縫合の様子


横断裂の場合

半月の円周方向に対して直行する方向(直径方向)に裂け目が入るのを横断裂と呼び、半月の全幅にわたって完全断裂に至ると、荷重分散機能はほぼ0(半月を全部切除したのと同じ、つまり、半月がないのと同じ)となってしまい、急速に軟骨損傷が進むことが知られています。しかし、このタイプの縫合術は技術的に難易度が高いため未熟な術者には敬遠され安易に切除されがちです(患者さんにとっては本末転倒ですが)。丁寧に頑張れば、下の写真のようにしっかりと縫合して治すことが可能です。

横断裂の縫合術
A: 横断裂、B-C: 各断端に糸をかけているところ
D-E: 縫合の様子


複合断裂の場合

複雑な断裂タイプも、ほとんどの場合、縦・横断裂の縫合法を組み合わせれば、技術的に縫合不可能というのは実はほとんどありません。しかし、このタイプもまた、未熟な術者には敬遠され安易に切除されがちです。変性や老化がひどい場合を除けば、半月は縫合できるということです。がんばって縫合しましょう。


[ 保存的治療 ]

縫合しても治癒できないほど変性(あるいは老化)が強い場合および糸もかからないほど細かくばさばさになった断裂の場合には、保存的に経過観察を行います。あえて切除せずとも、次第に断端が丸くなり、痛みを呈さなくなる事が多いからです。

しかし、保存治療といっても、いったい何をするのかというと、
 ①痛みや炎症が小康状態に入るまで膝を安静に保つ。
 ②半月に負担がかからないように膝・股関節周囲筋を訓練。
 ③半月に負担がかからないような動作訓練。等々です。

つまり、残念ながらまだ、積極的に治癒を期待できるような保存治療はない、ということです。それでも、痛みや炎症を起こさなければ、裂け目が残っていてもクッションとしてもう一働きしてくれる可能性があるので、切除してしまうよりはずいぶんマシということです。


[ 切除術 ]

縫合術の適応がなく、保存治療をおこなっても痛みが治まらない、明らかに保存治療にも期待できない場合には、痛みの原因になっている部分のみを切除します。切除後は特に複雑なリハビリを必要としないので、退院や社会復帰は早いのですが、元どおりに治すわけではないので、いずれ時間が経てば軟骨損傷を併発し変形性関節症のスイッチが入っていくことは否めません。また、切除量が多いほど半月の機能は失われ、切除が半月の最外周縁まで及ぶと”完全横断裂”と同じ状態(荷重機能が0)となってしまいます。この場合、下の写真のように、術後早期に急激に骨・軟骨が痛んでくるケースが散見されます。

A-1: 切除前のMRI、A-2: 他施設で切除された後のMRI、残った内側半月は完全に逸脱し、内顆部に骨壊死様の髄内変化が出現している。
B-1: 正常の半月と軟骨。B-2: 他施設で半月切除されてしまった後の軟骨損傷。

*こうなると、半月切除は早期復帰というより早期引退と云わざるおえません。切除せざるを得ない場合もありますが、早期復帰といいつつ縫合可能な半月損傷まで切除されてしまっている場合も少なくありません。若年者で、切除術を唯一無二の選択として提示された時には、よく熟考することをお勧めします。

前に戻る 🔙